目次

  1. 《第1章》初めての彼女の、困ったお願い
  2. 《第2章》育毛という名の、孤独な闘い
  3. 《第3章》リサの笑顔のためならば

25歳にして初めて、彼女ができた。

高校時代も大学時代も、彼女どころか、女友達と呼べる友人すらいなかった僕。

そんな僕に、ついに彼女ができた。

1年前に派遣社員として僕の会社に入ってきた、2つ年下の彼女。名前はリサ。

笑うと目尻が下がる愛嬌のある顔立ちで、面倒な雑用も快く引き受けてくれるリサは、僕だけじゃなく、会社の誰からも好かれていた。

「お前にゃもったいない」と同僚たちからは言われるが、自分でもそう思う。大事に、大事に、関係を育んでいきたいと思う。

でも、そんなリサの、とある<願い>に、僕はずっと困らされている。

「遊園地、行きたい!」

そう、リサは無類の遊園地好き。とりわけ上越市の「妙高サンシャインランド」にご執心だ。

え? 《遊園地くらい行ったらいいじゃん》って?

いや……実は僕、どーしても遊園地には行けないワケがあるのだ。

そう、僕はハゲている。巧みなスタイリングでごまかしてはいるが、おでこが異常に広い。

絶叫マシーンに乗って、それが露見するのがおそろしいのだ。

思えばここ数年、ずっとハゲがバレることを恐れて生きてきた。

僕の薄毛コンプレックス

はじめて薄毛を自認したのは、大学時代。生え際が目に見えて後退してきた。

父親も祖父もハゲだったから、「いつか僕も?」と思っていたが……「ついに来たか」と身ぶるいした。

“おでこ” “広い” “ハゲ”といった言葉に極度に敏感になり、サークルの飲み会でも、

「隣のテーブルで、自分のことがネタにされているのでは?」

……と疑い、聞き耳を立ててしまう。

果ては、ハゲが絶対バレないようにと、髪を伸ばしたり、パーマをかけたり、スタイリングに凝ったり。

モテるためじゃない。薄毛を隠すための、「逃げ」の大学デビューだった。

おかげで、隠すのだけは上手くなった。

今もスタイリング剤は、様々なものを取りそろえている。ワックス、ジェル、スプレー、なんでもござれだ。

ハゲを言い訳にする訳じゃないが、大学時代を通じて恋人ができなかったのは、このコンプレックスのせいでもある。

人は見た目が9割。ハゲは物笑いのタネ。それが現実だ、と思っている。

もし、リサが、僕が薄毛であることを知ったら。

それでも彼女は、僕のことを好きでいてくれるだろうか?

……僕には自信がない。

だって、そもそもリサのような子が僕と付き合ってくれている今の状態が、すでにひとつの奇跡なのだから。

付き合って半年。そんな想いを抱えながら、僕はいまひとつ、リサとの距離を縮められないでいた。

断たれた退路

「遊園地に行きたい」というリサの頼みを、これまでは何とか理由をつけて、かわしてきた。でも、とうとうそうも言っていられない事態に、僕は追い込まれてしまった。

ホワイトデーをすっかり忘れるという失態を犯した僕は、怒るリサの機嫌を取るべく、言ってしまった。

「何でもするから!」

すぐさまリサはこう応えた。

「遊園地に行きたい! 一緒に……  

……ジェットコースターに乗りたい!」

僕は観念した。

こうなったら、頭を切り替えよう。これはチャンスなんだ。積年の、薄毛コンプレックスにしっかり向き合い、それに立ち向かう、チャンス。

ずっと目を背けていた悩みと向き合うきっかけを、リサがくれたんだ。そう思うことにしよう。

(とはいえ、薄毛の克服には時間がかかるはずだ)

そう考えた僕は、とっさの判断で、「半年後」に交際一周年記念として遊園地に行く、ということを提案した。リサもそれに賛成してくれた。

さあ、もう逃げ道はないぞ。半年後、冷や汗のひとつもかかずに、絶叫マシンを乗り回すんだ…!

まず僕は、世の中の「ハゲの対処法」をインターネットで調べまくった。

クリニック、育毛剤、増毛……。

様々な方法がある事が判明したが、人目に付かず、抑えめのコストで手軽に始められるという事で、僕は育毛剤を選択した。

有難いことに、今は何でもインターネットで手に入る。レジのオバちゃんの、好奇心丸出しの視線に晒されることなく、口コミ評価の高い育毛剤をAmazonでポチッと購入。

効き目が出るのは3か月~半年後だということだが……やるしかない!

注文の翌日、もう商品が届いた。

いよいよ、孤独で長い闘いが始まる。

半年後の遊園地のために、絶対に育毛に成功してやる!

僕は念入りに使用方法を読み、その日から早速、育毛剤を使い始めた。

見えないゴールに向かって

1か月が過ぎ、2か月が過ぎた。

この間、サボることなく毎日、育毛剤を使い続けた。

髪の毛は生えてこない。その気配すら全くない。

効き目が出るまで「3か月~半年はかかる」という話だったが……本当に大丈夫か?

自分は全く無意味なことをしているのではないか、と絶望にかられたことも、一度や二度ではない。

そんなときはスマホを開き、妙高サンシャインランドをはじめ、富士急ハイランド、果てはディズニーランドまで、全国の名だたる遊園地のサイトを巡回。

「薄毛さえ克服すれば、リサをここにも、あそこにも連れていく……」

そんなふうに夢を膨らませて、育毛という、この孤独な闘いに自ら喝を入れた。

恐怖の○○脱毛

使い始めて3か月。

事件が起きた。

抜け毛が増えた。目に見えて、増えた

ブラシでとかすと、髪がゴソッと抜ける。

洗髪後の排水溝に溜まる毛も、以前より多い気がする。
朝、枕を見ても、以前より多く抜けている。

ウソだろ……!? 育毛剤を使って、かえって毛が抜ける。そんなことってあるのか?

不安にかられた僕は、「迷走」をはじめた。

「整髪料が頭皮にダメージを与えているのでは?」との考えから、なるべく整髪料を使う機会を減らそうと、リサとの土日デートを封印。
デートは「平日の仕事終わり」に限定した。

リサはこれを大いに不満に思い、「じゃ、私は私で、勝手にするわ」と言って……

ある三連休、女友達と、沖縄旅行に行ってしまった。

取り残された僕は、「いいんだ、これで育毛に専念できる……」と負け惜しみ。

ふたりの距離を近づけるために始めた育毛が、かえって僕とリサを遠ざける……。皮肉な話だ。

希望の光

4ヶ月目が終わる頃……ついに僕の額に変化が!!

まだ「うぶ毛」と呼ぶのもためらわれるほどの、細く短い髪の毛が生えてきたのだ。

ネットで調べたところ、なんでも「初期脱毛」というものがあるらしい。

  • 初期脱毛
    育毛剤などにより、乱れた「髪の成長サイクル」が正されると、新しい強い毛が生えてこようとして、古い弱った毛が抜ける。これを<初期脱毛>という

つまり、あの大量の抜け毛は、あとから新しくて丈夫な毛が生えてくる予兆だったのだ!

僕は封印していた土日デートを解禁。なんとかふたりの仲は復旧した。

約束の遊園地デートまで、あと2か月。ここからラストスパートだ!

リサとジェットコースターに乗ることを夢見て。  

「ヒロくんと遊園地に来られてホントに嬉しいっ!」

ついにやってきた、交際一周年、遊園地デートの日。

大丈夫だ。きっと大丈夫。

新しく生えてきた毛は、まだ長さも太さも“一人前”には程遠い。でも、地肌がモロに見えないぶん、印象はだいぶ違う。

ジェットコースターのシミュレーションとして、ドライヤーの強風を当てたり、駅のホームで電車の風圧に髪をさらしてみたり、ということもした。

結果、よし、これなら大丈夫! との確信が得られた。

今日、僕は、人生を一歩前に進める。見事ジェットコースターを乗りこなし、リサとの距離を、一歩縮めてみせる!

「行こう、ジェットコースター!」

「うん!」

リサの満面の笑顔。目尻が下がり、可愛さ140%。そう、この笑顔のために、僕は努力してきた。今日がその、ひとつの節目だ。

僕はぐいっと、リサの手を引いた。

広がる青空

いよいよジェットコースターへと乗り込む。

にわかに不安になってくる。

(大丈夫だろうか。風圧で抜けてしまったりしないかな。お前たちよ、どうか負けないでくれ!

自分の額のうぶ毛たちに、心の中でエールを贈る。

僕とリサを乗せたジェットコースターがゆっくり動き出す。

ふと、こんなことを思った。

このジェットコースターによって僕の薄毛がバレようとバレまいと、もうそんなことは問題ではないのではないか。

大事なのは、僕がリサのことをたしかに好きだということ。リサの気持ちをつなぎとめるために、自分は努力することができる、ということ。

ハゲがバレて、リサが少し引いてしまったとしても、必ず僕は努力して、前よりももっと僕のことを好きにしてみせる。

この半年の育毛活動を通じて、僕はそのことをたしかに知った気がする。

(ジェットコースターを降りたら、いっそ彼女に打ち明けてしまおうか? 僕の薄毛の悩みのこと……)

そんなことも思った。

ふたりを乗せたジェットコースターがいま、高く高く昇っていく。

曇りがちだった僕の心が、今、目の前に広がる青空のように晴れてきた……!

ヘアラボドラマ シリーズは、読者様のリアルな体験談をもとにしたフィクションです。

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